美術館の楽しみ方
最近、周りの人と話しているうちに「美術館で美術作品を見ることについてのハードルの高さ」が気になってきたので、初心者向けに、私流の美術館の楽しみ方を話したいと思う。
人によってやり方の向き不向きもあるだろうから、これから話すやり方が必ずしも誰にとっても良いことではないが、誰にでもできる方法ではある。
なお私は、昨年度、某芸大の美術学部の芸術学(笑)みたいな分野で卒業したばかりの若輩なので、それだけご承知おきいただきたい。
先に言ったようにこれは主に初心者向けのハウツーが第一の目的である。しかし、美術のことを十分に知っている人にも、よければ試してもらいたいとも思う。
また、このやり方で、美術作品を楽しむための「知識」ではなく「態度」を身につけてほしい。だから、これを読み終わったら電車に乗って、美術館に向かうだけで行える内容になっている。
そして「(十分な知識がなかったために)つまらないと感じてしまった展示」をなくすための方法でもある。どんなジャンルの展覧会でも同じことができるので、このやり方を繰り返すことで「見るクォリティ」を上げて、毎回、気持ちや考え方など、何かを持ち帰ることができるようになると思う。
ポイントは3つ。では早速話そう。
1. キャプションと美術史は気にするな
美術のメインは「作品」であり、その作られた背景などは副次的なものだ。
しかし多くの人が、作品のタイトル・作者名・成立年・サイズや画材、その他の解説が書かれたキャプションをついつい読み込んでしまっているのではないだろうか。
わからないことを恐れすぎて、わからないなりに見ることも立派な経験になることに気づけない。
キャプションを読む時間があったら、作品を見たほうがいい。
キャプションには、作品に含まれたたくさんの背景や美術史的文脈を、せいぜい200字ぐらいでまとめてある。これを制作するのは学芸員の重要な仕事であり、腕の見せ所でもある。
しかし、たいていの美術作品を真面目に語ろうとすれば、作品1点で普通に論文1本書ける。
それを200字にまとめるとなると、抽象的な表現を使わざるを得ない場合も多いし、何食わぬ顔で専門用語が登場することもままある。
で、結局うちに帰るころにはそんな内容まるっきり覚えてない、みたいなことになる。
あと全てのキャプションをちゃんと理解しながら読み、絵もちゃんと見る、なんてことをやってると普通に足が疲れる。
キャプションは全て、絵を見た後に読もう。先入観を殺して絵を見よう。
絵を見て自分でタイトルを想像してから、答え合わせをするのも楽しい。
例えば、花の生物画を見た時に、これは花以外が全然描かれていないから「花」だな!と想像してからキャプションを見て「夢」だというタイトルだと知ったら、また絵が変わって見えるだろう。
知識がなくても、絵や形だけでストーリーや思いを感じ取れるのが美術のいいところだから、美術史や芸術学なんかは全然気にしなくていい。もともと美醜の感覚が人それぞれあるんだから、それに従って見れば十分だ。
どうしても学問として美術を考えたい、考えたくなった人は、その展覧会の図録を買うといい。図録の文章の部分は、展示のキャプションをそのまままとめてあるだけだったりもするが、しっかり読み返すには家でじっくり読むべきであって、やはり展示会場で立ったまま読むものではない…と私は思う。
「もうどうしても私は知識が欲しい」という人もいると思うので、私がわかりやすい!と思う本も紹介。
最近の本は全然わからないから絶対おすすめではないんだけど、とりあえず読んだことあるやつ。
- 作者:早坂 優子
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
文多め。現代美術作家さん執筆で独自の目線という感じ。
まなざしのレッスン 2西洋近現代絵画 (Liberal Arts)
- 作者:三浦 篤
- 発売日: 2015/03/31
- メディア: 単行本
2. まず早足で回れ
これは、展覧会の"ストーリー"を把握することと、作品の第一印象を大切にすることが目的である。
美術館の展示は、学芸員によって全体のテーマと構成をちゃんと決められている。その全体を把握すれば、細部を落ち着いて見ることができる。探索系のゲームでマップが必要なのと同じだ。
まず早足で回って、なんとなく全体の流れの雰囲気をつかむといい。
展覧会は、書籍と同じように、いくつかの章が設けられていることがほとんどだ。
その章が、全体でつながっていることもあれば、あまり章ごとの関連がない場合もある。
作風の変化や作品同士の関係性は川じゃないから、わかりにくい感じに、めちゃくちゃに流れる時もある。だからわからなければ、わからなくてもいい。
そして、全体を見た上で気になる作品を覚えておく。1の「キャプションを読まない」にも通じるが、作品の第一印象を大切にするようにしてほしいからだ。
ここでの「気になる」はなんでもいい。もっと近くで見てみたいとか、キャプションを読みながらじっくり知りたいとか、雰囲気が気に入ったのでのんびり眺めたいとか、そういう気持ちを大切にして欲しい。
その後、最初に戻って、気になる作品を重点的にゆっくり見る2周目に入る。
ただ、注意していただきたいのは、展覧会によっては「再入場不可」ということがある。これは、チケットか出口においてある看板に書かれていることが多いが、わからなければ会場にいるスタッフに聞いた方がいい。
2周目を見る時に、再入場が可能ならいったん外に出て、入り口に戻るとスムーズだが、再入場ができない場合は、展示室を逆走しなくてはいけないので、他の来場者の迷惑にならないよう気をつけていただきたい。
3. ポストカードを買って帰れ
「2. まず早足で回れ」の続きのような感じだが、展示室を出る時、好きな作品を2、3点覚えておこう。
ミュージアムショップではだいたいポストカードが売られているので、気に入ったものを買って帰ろう。展示されてる作品のポストカードが全てあるわけではないので、必ず2、3点候補を作っておくのが重要だ。
展示会の目玉の作品でもいいが、習作や、ちょっと地味な風景画や静物画を狙うのもおすすめ。美術史界のお墨付きよりも自分の感性と好みを信じろ。
いろんな展覧会見て、買って帰って飾るだけで自室がちょっとした「お前・コレクション展」になるぞ!
小さいけど、画質は大体十分にいいので、じっくり眺めるのもいい、ファイリングしていってもいい。自分の好みの作風がわかったりするかもしれない。
あんまり統一感がないけど風景画が多いかな。自分が描くの苦手だからかも。
おまけ:美術作品の見方で大切にして欲しいこと
美術界では、かなり「作者の意図」が重要視されている。美術史や芸術学をやっている人たちは、もう時代背景から作家の生い立ち、人生観や哲学まで、とことん掘り下げて作品を見るヒントにしている。
ただ、これはあくまで「そういう学問の形」でしかないと思う。
作品解説を読んで膝を打つことが美術鑑賞だとするなら、「作品」が存在する意味がない。
だから、もっと「見る側」が主体になっていいと思う。
そこで、「対話型鑑賞」という鑑賞法を紹介しておきたい。
英語でVisual Thinking Strategies(VTS)といって、集団で美術作品を鑑賞するやり方だ。
かなりカジュアルで、子どもでも、大人でも、知識があってもなくても参加できる。むしろ、この鑑賞法の場で知識をひけらかす方が煙たがられると思う。
美術作品"だけ"を見てわかること、感じたことを話し合い、聞き手に専門家を置くことで身になるやり方なので、これに興味があれば美術館で行われるイベントに参加するといいと思う。最近やってんのかな。
とにかく、美術について、知らないことを知ろうとするより、知っていることに照らし合わせて美術作品を鑑賞してくれたらいいなと思う。
気楽に美術を鑑賞してほしい、というのは、何も考えずに見ろということではない。
考えることは難しいことじゃない、と知っていてほしいということだ。
言い忘れていたが、私も毎回この方法で鑑賞している。
それぞれの一番気楽で、面白いと思えるやり方で見てくれたらそれが一番いい。
時勢もあり、最近全然美術館に行ってないので私も行きたい。 以上。